掘削問題におけるFEMの適用

地盤の掘削の際に近接構造物への影響などを検討するために,FEM解析を行うことは既に一般化していますが,この場合注意しなければならないポイントが多数あります。
 



(1)リバウンドの問題
 掘削問題をFEMで解析すると,リバウンドの影響が大きくなり,こんな変形となる場合が多いです。
 
掘削によるリバウンド

 
 この結果をそのまま使うと,近接構造物の位置がリバウンドによる浮き上がりとその背面の沈下の境界付近となることが多く,”影響なし”などという誤った判断を下すことになります。このようにリバウンドが大きくなる原因は,土が除荷によって実際には戻ることのないゼロ点に弾性的に戻ってしまうからです。
 
土の応力ひずみ曲線

 このため山留め壁体の変形を弾塑性法山留め解析で計算しておいて,この変形量をFEMでx方向の強制変位として与えた方が,実際の変形に近い結果が得られる場合が多いです(経験上)。また先の変形図のようにどこまで遠方に行っても沈下影響範囲となってしまうので,いわゆる近接施行の影響範囲と言われている領域の外側の適当な位置で,y方向を拘束した方が実際に近い結果となる場合があります。
 

(2)”ずれ”の問題
 FEMは言うまでもなく連続体にモデル化した解析です。FEM解析で変位量が小さいかったから近接構造物には影響なし,で本当に正しいのでしょうか。

例えば山留め背面に近接した基礎杭。この場合,壁体が数cm変位すれば,杭周辺の地盤が緩む可能性が高いことは明白でしょう。すると,どうなるか?
  a) 杭周面地盤の緩み
  b) 周面摩擦による支持力の低下
  c) 杭底面への荷重の集中
  d) 支持力不足による基礎全体の沈下

 以上は最悪のストーリーですが,このような現象が発生しないという保証はありません。特に構造物と土の”ずれ”を無視できない場合には注意が必要です。ジョイント要素を使うという方法もありますが,いずれにせよ計算結果を基に考察することが必要です。
 

(3)2次元解析の問題
 例えば下水管布設の山留めのように,標準断面的な構造が奥行き方向に連続するのであれば,そのまま2次元解析を行っても大きな誤差はないでしょう。
 しかし,シールド立抗や深礎掘削のように,平面的に縦横比で1:1からせいぜい1:2程度の円形や矩型であれば,本来は解析モデルの奥行き方向に存在するはずの周辺の土の影響が無視できなくなります。
 このようなモデルを2次元で解析する場合,何らかの方法で補正しなければ,他のパラメータが適切であったとしても,計算結果が合うはずがありません。合っていたら逆に何処かが間違っている可能性が高いです。


最近は各社から,”FEM”を意識しない程簡単で高機能な製品が多数出ています。これらは,生産性を高めてくれる一方,非常に危険でもあると思います。
 ”考える”というステップを踏まずに答えだけが一人歩きしてしまうからです。
 モデル図を手で描き起こして,座標を拾って,エディターで入力して,バッチ処理で計算してもらっていた昔が懐かしくもあります。